遠くの銀河までの距離の求め方
Distance to a galaxy
第〇段階:太陽までの距離
じつは太陽までの距離を求めるのはけっこう難しいのです。惑星は万有引力の法則に従って太陽の周りを太陽を焦点とした楕円運動をします。問題を簡単にするために、惑星は太陽の周りを円運動するとして、運動の方程式を立ててみましょう。Mを太陽の質量、mを惑星の質量、rを太陽から惑星までの距離、vを惑星のスピード、Gを万有引力定数とします。万有引力が回転運動の向心力に等しいという式をたてると
をえる。
公転の周期をTとすると
であるから
をえる。これは、公転周期が軌道半径の3乗に比例するという、ケプラーの第3法則である。これで軌道半径が決まりそうだが、比例定数の中に太陽の質量が入っているので、これだけでは決まらないのである。
コペルニクス、ティコ・ブラーエ、ケプラーらの精密な天体観測は、太陽を回る惑星の運動を明らかにしていた。そこで、例えば地球と火星の距離が分かれば太陽から地球、火星までの距離が分かることになる。火星までの距離は、1672年にフランスの天文学者カッシーニがフランスと仏領ギアナで同時に火星の観測を行って、背景の星に対して火星の位置がほんのわずかにずれるそのずれの大きさを計って求めることができた(大雑把にいえば、地球の直径を基線とした三角測量である)。
最近は、地球から金星にレーダー波(電波)を送り、その反射波が戻ってくるのを観測して金星までの距離を精度よく計ることもできる。(レーダー波を送る最大の目的は金星の地形の観測である。)
地球と太陽の平近距離を1天文単位(1 astronomical unit; 1 AU)と呼ぶ。1 AUはおよそ1億5000万 km である。
第一段階:太陽系に近い星の距離
太陽系から近い星は半年経つと(地球の公転のせいで)遠方の星に対してほんの少し位置がずれる。このずれの角度は年周視差の2倍にあたり、この角度を測定すれば星までの距離が分かる。地球には大気があるので地表からの観測によってこの方法で距離が求められるのは、10パーセク(pc)程度までの星である。
しかし、視差観測を目的としたヒッパルコス衛星によって100パーセクを超える距離の観測が可能になった。ちなみに、北極星の年周視差は0.007秒(角)程度であり、距離は430光年程度である。北極星までの距離は以前は800光年と言われていたが、最近の精度のよい観測によっておよそ半分の距離になった。
1秒角(1/3600°)の視差がどんなに小さなものかを実感するには、1AUを1mmとした時、1pcの距離にある星が、何メートル先にあることになるかを計算してみるといい。視差によって星の距離を求める観測は、1mm離れた2点から数100m離れた点を見て、背景と比べてどのくらいずれているかを調べていることになる。
第二段階:H-R図を利用した星団までの距離の測定
視差法で距離がよく分かった星の色と絶対等級(10pcにある星を見た時の明るさ)の関係を描いたのがHR図である。この図の上で主系列星は青い色の明るい星から赤い暗い星に向かって左上から右下に向かって細い帯状に並ぶ。主系列星の色が分れば絶対等級が分ることになる。(例えば、色指数0.4(白い星)の絶対等級は+4である。)見かけの等級が絶対等級より明るければ、星は10pcより近いところにある。これは星の見かけの等級と絶対等級をくらべればその星までの距離が分るということを意味している。
狭い宇宙空間に多数の星が存在する時その星のグループを星団と呼ぶ。星団にはプレアデス星団(すばる)のように、若い星が主体の散開星団と年老いた星が主体の球状星団がある。これらの星団に属す星は地球からの距離が同じと考えてよいので、見かけの等級と星の色の関係を直接H-R図に書き込むことができる。(この場合は絶対等級は分かっていないから縦軸は見かけの等級である。)これらの星団の中にあるケフェウス型変光星(第三段階参照)を調べることによって、ケフェウス型変光星の光度と変光周期の関係が分かってきた。
第三段階:ケフェウス型変光星を用いた距離の推定。
ケフェウス型変光星は星の変光の周期と絶対光度の間の関係がよく知られている。
次のような例で説明しよう。
100ワットと50ワットの電球があって、100ワットの電球は10秒に一回、50ワットの電球は5秒に一回の割合で点滅を繰り返しているとしよう。電球を観測者から100メートルの距離におけば、もちろん100ワットの電球の方が明るい。(絶対光度は100ワットの電球の方が明るい)。しかし100ワットの電球を500メートル先に持ってゆけば50ワットの電球の方が明るく見えるだろう(相対光度は50ワットの電球の方が明るい。)。それでも、点滅の周期を調べればどちらが100ワットの電球かは分かる。また、見かけの明るさが分かれば、距離が求まる。(距離が2倍になれば見かけの明るさは1/4になる。)
マゼラン星雲は銀河系宇宙のそばにある小宇宙であるが、この宇宙にある星は地球から見ればほぼ同じ距離にあると考えてよい。マゼラン星雲にあるケフェウス型変光星の平均光度と変光周期の関係を調べた結果がケフェウス型変光星を用いた距離決定の基礎になっている。このためにはマゼラン星雲までの距離が精確に知られている必要があるが、最近の観測精度の向上によりマゼラン星雲までの距離の信頼性は非常に高いものになった。
ケフェウス型変光星の中には銀河の中で最も明るい星が含まれるので、遠方の銀河の中にも見つけることができる。現在ではハッブル宇宙望遠鏡で乙女座銀河団の銀河の中のケフェウス型変光星の変光周期が観測されており、この銀河の距離が5000万光年程度ということがわかった。
第四段階:超新星爆発を用いた銀河までの距離
第一種の超新星爆発は一方が白色矮星、他方が巨星の連星系で、膨れ上がった巨星のガスが白色矮星の上に降り積もり、その量がある臨界量にまで達すると超新星爆発が起こるというもので、爆発の際の絶対光度は一定である。そこで、超新星の見かけの明るさから距離が推定できる。(ある一定量まで物が溜まると事件が起きるという点に注目するなら「鹿(しし)おどし」に似ている。)

その他の方法
- ハッブル宇宙望遠鏡は遠方のクエーサーが何重にも見える様子を撮影している。これはクエーサーから来る光が途中の銀河団の重力レンズ効果で曲げられいくつかの経路を通って地球に達するためである。クエーサーに変化が起こると、その変化が地球に伝えられる時刻は経路ごとに異なる。この時間差からクエーサーまでの距離が推測される。
LINKS
Kansas State University の 天文教育のHP。視差法やハッブル定数を求める演習問題がpdf file として入手できる。






関連図書
宇宙を測る K. ファーガソン(著)、加藤賢一、吉本敬子(翻訳) ブルー・バックス 講談社
論争する宇宙 吉井譲(著) 集英社新書
ファーガソンの本より新しい話題が取り込まれています。研究者の実情が分かる本です。
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